ニュースの概要

米国の2026年中間選挙で、AIを使って画像・音声・動画を作ったり加工したりした政治広告への支出が、1億3700万ドルを超えたことが分かった。ウェズリアン・メディア・プロジェクトと広告分析会社AdImpactの調べでは、確認できたAI関連の広告は220本超。8割以上が共和党の候補や関連団体によるものだった。中には実在の政治家の顔や声を使い、実際にはなかった発言や場面を作る、いわゆるディープフェイク型の動画も含まれる。そして大半の広告には、AIを使ったことの表示義務がない。選挙広告のAI利用が、試験的な段階を過ぎて本格的な資金投入の段階に入ったことを示す数字である。

引用元: AI生成広告、米中間選挙で1億3700万ドル規模に拡大 大半が表示義務なし(The New York Times / Yahoo News / Bloomberg Government)

分析・見解

金額より重いのは、実在の政治家を使う広告の存在

1億3700万ドルは、米国の選挙広告全体から見れば一部にすぎない。それでも220本超の広告に投じられた額としては小さくない。しかも中には、実在する政治家の顔や声を使い、起きていない発言や場面を作った動画が含まれる。

背景画像を整える程度の加工と、特定の人物に言ってもいないことを言わせる行為は、まったく別物である。後者は有権者が判断に使う材料そのものを作り替えてしまう。

共和党側が8割超を占めた差は、技術より運用の違い

8割以上が共和党側という偏りを、一方の党だけの問題と読むのは早い。AI広告は制作費と時間を大きく減らせるため、人手や予算に余裕のない陣営ほど魅力を感じやすい。しかも今回の数字は「確認できたもの」に限られる。民主党側の利用や、見つけにくい小規模な利用は、今後さらに表に出てくるだろう。

2024年の予備選では、バイデン大統領の声をまねた自動音声電話が有権者に届き、連邦通信委員会がAI音声の自動電話を違法と整理した。音声は映像より作りやすく、広がりやすい。今回の動画の拡大は、その延長線上にある。

表示義務がないため、見破る負担が有権者に回っている

大半の広告にはAI使用の表示義務がない。ルールは州ごとに異なり、全国で統一された基準は乏しい。広告主が自主的に示さない限り、見る側は気づけない。

ただし、表示があれば安心というわけでもない。短い動画では小さな注記は読まれにくく、一度ついた印象は後から訂正しても消えにくい。電子透かし(=目に見えない印を画像や動画に埋め込む技術)も、配信側が読み取って表示しなければ役に立たない。

最後の関門は、広告を流す媒体側の審査になる

広告を実際に流すのは、テレビ局や動画サイト、SNSなどの媒体である。法律が追いつかない間は、各社の広告審査ルールが事実上の基準になる。ただし基準は会社ごとに違い、抜け道も生まれやすい。

今後は、選挙期間だけ審査を厳しくする、実在人物の合成には事前確認を求める、といった運用が広がるとみられる。流通網全体で歩調をそろえられるかが問われる。

ビジネスへの影響

自社広告でAIを使うなら、線引きを文書にしておく

実在の人物の顔や声を生成する場合は、本人の書面による同意を必須にする。法律上の義務がなくても、AIを使った旨は自主的に表示したい。広告の審査表に「合成の有無」「素材の出どころ」「修正の履歴」の3項目を加えるだけでも、事故はかなり減らせる。

制作を外部に任せる場合は、契約書にもAI利用の申告義務を入れておく。後から問題が見つかったときの責任の所在が明確になる。

偽の動画が自社に向けられたときの初動を決めておく

政治に限らず、経営者や自社商品を使った偽動画は今後どの業界でも起こりうる。確認の窓口、公式見解を載せる場所、媒体への削除申請の手順を、広報と法務で事前に決めておきたい。拡散の勢いは最初の数時間で決まる。

自社の公式動画に、出どころを示す仕組みを付けておくことも有効だ。本物であることを証明しやすくなり、偽物との区別を示す根拠になる。

出稿先の選び方にも、AI広告への方針を加える

選挙期間は政治広告が増え、自社広告が偽動画の近くに表示される恐れもある。ブランドセーフティ(=自社広告が不適切な内容の隣に出ないようにする管理)の設定を見直したい。出稿先の媒体には、AI広告の審査方針と、問題が起きたときの対応を問い合わせておくとよい。

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